星の見える東京

浅野いにお『ソラニン(新装版)』&『零落』の感想(ちょっとネタバレあり)

『ソラニン』と『零落』

浅野いにおさん新作の単行本が二冊同時発売しました。

一冊は、12年前に出版されて映画化もした、若いミュージシャン志望の若者を描いた『ソラニン』の新装版。

主人公の種田を事故で失った芽衣子たちの約10年後(続編)が描かれるということで、発売前から大きな話題となりました。

もう一冊が、一人の漫画家の葛藤と凋落を描いた『零落(れいらく)』。

主人公の漫画家の若い頃の姿が著者の浅野いにおさんと似ているので、一部現実も混ざった伝記的作品なのかもしれません(インタビューで浅野さん自身多くが「実際にあったこと」と語っています)。

以下、『ソラニン(新装版)』と『零落』の概要と感想を書きたいと思います(多少ネタバレあり)。

 

ソラニン 新装版

 

 

著者  –  浅野いにお  出版  –  2017年

 

『ソラニン(新装版)』のあらすじ

この新装版には、通常の『ソラニン』に加え、単行本に収録されていなかったサイドストーリー「はるよこい」、描き下ろしカット、そして続編の「第29話」が掲載されます。

サイドストーリーの「はるよこい」は、芽衣子と種田が住んでいたアパートの一室に越してくる若い女性を描いた短編漫画です。

新作(続編)の「29話」では、芽衣子の年齢は36歳。仕事はウェブサイトのライターで、年下の夫と結婚して二人で暮らし。芽衣子も、ビリーらも、社会にわずかながら馴染み、芽衣子には「守るべきもの」もできました。

 

『ソラニン(新装版)』の感想

続編については、頁数も少なく、とてもあっさりとした印象でした。

浅野いにおさん自身、最初は二、三ページで終えるつもりだったと語っていたくらいなので、もともとさらっと描くつもりだったのでしょう。むしろ、その「あっさり」を描きたかったのかもしれません。

種田の名前も、これっぽっちも登場しません。

ただ、遠い遠い記憶として、芽衣子のなかに、ソラニンの歌詞がふっと香るようによぎり、それが余計に切なさを際立たせていました。

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零落

 

 

著者  –  浅野いにお  出版  –  2017年

 

『零落』のあらすじ

同日発売の『零落』は、一度は人気を博した漫画家の深澤が、もがきながらも凋落していく物語です。

学生時代、深澤の恋人だった猫目の後輩の言葉と、それから十数年後に彼が出会った、その後輩とよく似た大学生の風俗嬢との出会いが話の中心となります。

嫉妬。葛藤。嘘。離れていく人々。凋落しながらも描き続ける漫画家の「業」が描写されています。

 

『零落』の感想

もっとも印象的だったラストのシーンに、漫画家、表現者のもっとも痛切な心情が表現されています。

主人公の男が、日々の心の空虚さを埋めていた、ツイッターでの熱狂的なファンとのやりとり。そのファンの若い女の子が、深澤のサイン会に訪れる。

そして、手を握り、涙ながらに感謝の言葉を告げると、そのファンの子の感激の様子に、深澤は思わず涙がこぼれ落ちます。

嬉し涙ではなく、途方もなく暗い、救い難い涙が、「君は……何にもわかっていない……」という言葉とともに零れました。

この『零落』を読んでから、また『ソラニン(新装版)』を読み返すと、あの「あっさり」にも深みが出ます。

 

冒頭のシーンで、学生時代の深澤と猫目の後輩が川沿いに立って向こう岸を眺めている絵があります。

この川の向こう岸が、種田と芽衣子が住んでいた町になります。

『ソラニン』にも、この対岸のマンションが描かれています。

浅野いにおさん自身を模したと思われる、漫画家になる以前の学生時代の深澤が、種田と芽衣子が住んでいる『ソラニン』の世界を眺めている。

もしかしたら作者が、この街に刻まれた記憶を昇華しようとして描かれたのが『ソラニン』だったのかもしれません。

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