週末は田舎暮らし 〜ゼロからはじめた「二地域居住」奮闘記

著者 – 馬場未織 出版 – 2014年
─────
この本は、ある一組の夫婦が、平日は東京で働き、週末は房総半島で暮らすという「二地域居住」の生活を、子供と一緒にゼロから始めた際の体験談を綴ったノンフィクションエッセイです。
写真が多いのでイメージも沸きやすく、語り調も織り交ぜながらの文章なので、とても読みやすい本になっています。
本の著者である馬場未織さんは、幼い頃から「コンクリート砂漠」で育った建築が専門の女性ライターで、家族は激務に追われる夫と、三人の子供、そしてネコ、キジなど途中から野性味が溢れていきます。
馬場さんの房総半島と東京の「二地域居住」のスケジュールは以下の通りです。
まず、平日は都心で働き、金曜の夜になると子供と一緒に車に乗り込んでアクアラインを一時間半ほど走る。
そして、ゆったりとした時間の流れる南房総の村の広大な土地と築100年の古民家で週末を過ごす。
彼女が、田舎暮らし、二地域居住という選択を決断したきっかけは、夫のふとこぼした言葉でした。
子どもたちには財産らしい財産は残せないが、”田舎”という財産なら、残してやれるかもしれない。
この言葉をきっかけに、最初は反対だった馬場さんも徐々に「二地域居住」に乗り気になっていったそうです。
物件は、南房総。広さは8700坪。古民家、農地付きでインフラ完備。ちなみに気になる予算は、「ポルシェくらいの料金」とのこと。
確かに、二地域居住は費用もかかるし、移動も大変です。
しかし、都会という目まぐるしい人工的な空間で、なるべく健やかに末長く深い呼吸をしようと思ったら、こういう生活は、先行投資として必要なことなのかもしれません。
馬場さんは、移動のあいだの「ゆっくりとスイッチが変わっていく感覚」を次のように綴っています。
アクアラインを境に、世界が切り替わる。
東京での脳的生活と、南房総での農的生活、これを行き来するスイッチが生活に組み込まれていることにより、今いる世界の輪郭が見えてきます。輪郭が見えるということは、外側から見る視点を持つということ。
つまり、たまたま自分が今いる場所が、世界のすべてではないという解放感を得ることです。
自分が今いる場所が、世界のすべてではないという解放感。
これは、子供にとっては特に大事なことだと僕は思います。
子供は、教室を筆頭に、大人よりもさらに狭い世界で生きることを強いられる。自分で移動もできないですし、選択もできません。
学校で居場所を失ったとき、それは世界で居場所を失うことと等しい不安に襲われます。
だから、虐められても黙って耐え忍び、必死に教室にしがみつこうとする。それ以外に仕方がないのです。
子供には(ほんとうは大人もそうかもしれません)、いざというときのための学校からの「逃げ道」や「隠れ家」が必要なのです。
僕自身も、不登校の時期がありました。そのときは読書の世界に逃げ込みました。今ならネットの世界もあるのかもしれません。
でも、そういったヴァーチャルな世界よりも、手触りのある「自然」の世界の「隠れ家」のほうが、長い目で見たときに、心にとっても体にとっても、きっと良いことなのだろうな、と思いました。