職業としての小説家

著者 − 村上春樹 出版 − 2015年
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村上春樹さんの最新エッセイ集『職業としての小説家』を読みました。
まず、表紙のポートレートが目を引きます。
これまでのイラスト中心のデザインから、荒木経惟さん撮影のモノクロの写真で飾られたモダンな装丁に一新されました。
本の内容は、もともと雑誌「MONKEY」に連載していたエッセイに、大幅な書き下ろしが加わったものです。
村上さんが、自分自身の体験を通して、書き方=生き方というテーマで真っ正面から書き綴ったエッセイで、伝記のような側面もあります。
もしかしたら、「エッセイ」というよりも、本人もあとがきで称しているように、静かな空間でじっと耳を傾ける講演録と言ってもいいかもしれません。
小さなホールで、だいたい三十人から四十人くらいの人が僕の前に座っていると仮定し、その人たちにできるだけ親密な口調で語りかけるという設定で書き直したわけだ。
このエッセイ集は、優しい文体で語られているのですんなりと読み通せるとともに、内面に深く切り込んだとても充実した内容となっています。
村上さんが、これほど真っすぐ書くことに絞って語ったことは過去にはなかったのではないでしょうか。
小説家になった当時のことや出版業界のこと、芥川賞のこと、小説を書くときに想定する読者像のこと、自身の健康観と執筆の関係性など、様々な角度から「書き方」について綴られた貴重な一冊です。
村上春樹ファンや、作家志望の青年、あるいは多くのひとが、「これは自分に向けられた言葉だ」と思える「講演」となっていることでしょう。