漫画『ソラニン』の芽衣子とメガネの男の子

漫画『ソラニン』では、多摩川の河川敷で芽衣子が幼い男の子と話すシーンがあります。
種田の死後、ギターを始めた芽衣子が、バイト先の後輩の大橋くんに勧められたこともあり、ふと路上ライブをしようと向かった新宿。しかし、結局ギターをケースから出すことなく住んでいる街に帰り、河川敷でぼうっとたそがれていた芽衣子を、じっと見つめる一人の男の子がいました。
メガネをかけ、澄んだ瞳で見る少年に、芽衣子は「こんなところで何をしているの? もしかして迷子?」と尋ねると、「ちがうよ、ぼくはずっとここにいたもん。おねーさんこそ何をしているの? 迷子?」と聞き返し、「まあ、迷子みたいなもんだよ」と笑う芽衣子。
ギターに気づいた少年が、芽衣子に「歌ってよ」とリクエストし、目を閉じて弾きながら歌っていると、友人の小谷アイに後ろから声をかけられ、我にかえり、気づいたらメガネの男の子はもういません。
画像 : 浅野いにお『ソラニン』
あれ、メガネの男の子は? と訊く芽衣子ですが、「誰もいなかったけど?」とアイ。
これは漫画版の『ソラニン』のみに描かれる不思議なシーンで、映画版との違いの一つです。映画版では、メガネの男の子は登場せず、芽衣子はアイに「もともと迷子みたいなものだから」と言います。
漫画版にだけ描かれる、この男の子は一体何者なのでしょうか。
第一印象は、種田の幼い頃なのかなと。面影が似ている気がしますし、そんな風に思いました。きっと芽衣子も種田の少年時代の写真を見たことがあるでしょうし、また、もしかしたら二人で「もし男の子なら種田に似るかな」と言った話もしたことがあるかもしれません。
だから、種田の少年時代であり、想像していた未来の姿の入り混じった幻影が、芽衣子の前に姿を現したのではないでしょうか。
メガネの男の子は、迷子のようなものだと語る芽衣子に、「歌ってよ!!」と言います。
その言葉に応えるように、芽衣子は河川敷に座り、弾き語りをします。そうして歌いながら、「あたしはまだまだ迷っているばかりだ、だけど…」
…だけど、2週間後のライブをやりきることができれば、あたしは何か変われる。そんな気がする。
出典 : 浅野いにお『ソラニン』
そんな風に思えるようになります。
ところで、芽衣子が歌っている多摩川の河川敷では、ときどきギターを持って歌っている若者もいます。
僕が以前初夏のある日に一人で座ってぼんやり空を眺めていたら、クリープハイプの曲を歌っている若い男の子がいて、その声がものすごく力強くて素敵だったことを覚えています。
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