風を「怖い」と感じたのは、数年前、海から割と近い街に住んでいた頃に味わった台風以来のことだった。
昨夜は、幾度も突風がマンションを揺らし、まるで巨大な怪物が練り歩いているようで、しばらく眠ることもできなかった。遠くでは、サイレンの音が不気味に響いていた。竜巻注意報が発表され、深夜には停電もあったようだ。風の音を聴きながら、ひょっとして次々家が根こそぎ持っていかれるのではないか、というアニメのような映像が浮かび不安だった。だから、朝、玄関の扉を開けて街がそのままそこにあることに、「偉いなぁ」と感動さえ覚えた。
道端には、疲れ果てたように枝葉やどんぐりの実が散乱していた。狛江駅前の弁天池の緑地保護区では、台風の影響でぽっきりと樹木が折れ、寄りかかるように倒れ込んでいた。少し胸が痛くなった。近所の金木犀もすっかり散ってしまっただろうな、と思っていたが、まだひっそりと花を咲かせ、優しい匂いを漂わせていた。
今日は台風一過で晴れ渡り、予想では気温も三十度を越える真夏日になると言う。