台風後の多摩川の河原は、老木から植物まで綺麗に流され、もともとこの辺りにあった木々が倒れたのか、それとも上流から流れ着いたのかは分からないものの、まるで恐竜絶滅後の世界の様相だった。
以前の光景を知っている人からすると、一体ここはどこなんだ、というくらいの変貌ぶりで、散歩中の地元のおじいさんも、台風の翌日だったか、土手にしばらく立って以前の姿を想い起すように河原のほうを眺めていた。
実際に河原に降りてみると、恐竜や巨大生物が逃げようとして飲み込まれ、そのまま朽ちたような光景が広がっていた。砂利の広がる灰色の世界に、ぽつりぽつりと倒れた木々は、朽ち果てて横たわる巨大木製人間や、SF映画に出てくる大きな宇宙人、ジブリ作品に出てきそうな老木の精霊の死骸のようだった。
風格がある。僕の身長よりはるか高く、たぶん三メートルくらいはあるかもしれない。もともとこの辺りには古の雰囲気を感じさせる主のような老木が立っていたので、もしかしたらその木かもしれない。多摩川のちょうど狛江と調布の境に位置し、前からとても好きな景色だったものの、あまりに日常だったために残念ながら僕のカメラやiPhoneにはほとんど台風以前の写真が残っていなかった。
だから、比較はできないが、もともと冬場は石ころだらけの殺風景な景色だったものの、それでももう少し植物はあったように思うし、少なくともあの古代世界に生きる巨大生物のような老木たちはちゃんとそこに立っていた。
この写真は春先の風景。たくさんの菜の花が咲く、のどかな光景が広がっている。右手奥に見える木々が、台風の影響で流されてしまったようだ。月面のように殺風景な景色になっていた。
寂しいなぁ、と思いながら、川の上流のほうに向かって砂利の河原をとぼとぼと歩いていたら、一ヶ所だけ、砂漠のオアシスのような緑色の場所が見えてきた。
近くに座って休んでいたら、川のせせらぎと鳥の鳴き声がとても心地よく心を潤してくれた。