星の見える東京

短歌ムック『ねむらない樹vol.1』|笹井宏之さんの思い出【読書感想文】

ねむらない樹

著者 – 書肆侃侃房  出版 – 2018年

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短歌ムックの『ねむらない樹』を購入しました。

これは「vol.1」、すなわち創刊号で、若くして亡くなった歌人笹井宏之さんの没後10年に当たって創刊されました。

ムック名の『ねむらない樹』というのも、笹井宏之さんの「ねむらないただ一本の樹となってあなたのワンピースに実を落とす」という短歌に由来します。

 

 

ムックでは、若い世代の短歌がふんだんに紹介され、また短歌に関する議論やエッセイも掲載されています。

新しい短歌を紹介したアンソロジーでおすすめ、山田航『桜前線開架宣言』。

そして、ムックの最後には、笹井宏之さんの父考司さんの綴る宏之さんの思い出「笹井宏之への旅」という連載があります。

ここでは、笹井宏之さんの経歴や、短歌との出会い、エピソードなどが語られ、僕は、これが何よりも読みたくて『ねむらない樹』を購入しました。

15歳の時に心身の病が重くなり、それからの10年間は24時間、母親と接する時間が殆どでした。特に最初の5年間は殆ど寝たきりで寝返りも打てないような状況でしたので、苦しさのあまり粗暴な振る舞いをしたり、リストカットに及ぶこともたびたびでした。

部屋は目張りをして光を遮り、また家族は音をたてないようにテレビや音楽はイヤホン・ヘッドホンで聴くようにして、できるだけ宏之を休ませるように生活していました。

書肆侃侃房『眠らない樹vol.1』より

笹井さんは、亡くなる6日前に、彼と交流のあった歌人の日野やや子さんに15作品の短歌を送っていました(のちに『世界がやさしくあるためのメモ』に収録)。

その15作品も、「笹井宏之 最後の歌」と称して掲載されています。

その一首というのが、「千年の眠りののちに語られる世界がやさしくあるための嘘」。優しくて、そして詩人としての深い誇りを静かに感じさせてくれる歌でした。

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