大学時代から好きだった漫画に、若いバンドマンを描いた『ソラニン』がある。このソラニンの映画版では、東京の片隅にあり、小田急線沿線にある狛江市の和泉多摩川駅周辺がロケ地として使われている。
芽衣子と種田の暮らしたアパートや語り合った河川敷、ボート乗り場など、この小さな町がソラニンの世界の舞台になっている。原作の漫画版に登場する商店街や多摩川の細かな描写も、この和泉多摩川の景色と一緒なので、浅野いにおさんも、この町をモデルにして描いたのだと思う。
多摩川沿いを歩くと、東京とは思えないような、とても穏やかな景色が広がっている。冬には遠くに綺麗な富士山が見え、春は桜の木々が弧を描くように伸び、風景が季節ごとの優しい色合いを見せてくれる。
東京は今日、
ちょっといい天気で、いつものように
小田急線が走ってて、多摩川では
恋人達が
ボートをこいでいた。(浅野いにお『ソラニン』)
ときおり、河川敷で映画やドラマの撮影をしている光景に遭遇する。色々な「ドラマ」のロケ地になる理由も分かる気がする。都心から近いというのもあるだろうし、なによりここは、物語を注ぎ込める静かな余白で溢れているのだと思う。