新海誠『君の名は。』と岩井俊二

 

 

映画『君の名は。』でも知られる新海誠監督を特集した雑誌のなかで、新海監督が影響を受けた人物として、大江千里さんやRADWIMPS、村上春樹さんなどとともに、映画監督の岩井俊二さんの名前を挙げ、二人の対談も掲載されていた。

対談では、冒頭、新海さんが岩井監督の初のアニメーション作品『花とアリス殺人事件』が『君の名は。』のコンテを描いている最中に公開され、その影響がずいぶんとある、ということを語っていた。それから、『君の名は。』に隠された、岩井作品に対するいくつかのオマージュも明かしている。

新海 : バスに乗って、瀧くんを真ん中にして奥寺先と司がこう……とか。あれは実写のほうの『花とアリス』のまんまのアングルをいただいて(笑)

岩井 : ああ、あの構図は何となく気づきましたけど ── オマージュなんですか?

新海 : そうです。(『EYESCREAM増刊 新海誠、その作品と人。』)

また、別の箇所に載っている、新海監督単独でのロングインタビューでも、ビルや電柱のような、「無機質なものに心情を託す」という手法について、岩井俊二監督から影響を受けたと語っていた。

そうした大きな無機物に心情を託す手法は僕が見出したものではないですよね。いろんな影響が絡み合ってるとは思います。

今回、岩井さんとの対談ができるということで『リリイ・シュシュ〜』を見返して、両毛線沿いの窓の風景とか、青空に工場の白い煙であったりとか鉄塔のシルエットとか、そうしたものにグッとくるものがあって、無機物に心情を託すみたいなところっていうのはこういうところから影響を受けてきたのかもしれないなと思いました。(『EYESCREAM増刊 新海誠、その作品と人。』より)

こういった背景もあるからなのか、『君の名は。』のエンディングロールでは、スペシャルサンクスに岩井監督の名前がある。

一般的に、自身のアイデンティティに閉じる傾向が見られるクリエイターという職種を考えると、新海監督は、自作のルーツや関係性を気さくと言ってもいいくらいに爽やかに公言しているように思えた。もしかしたら、その感覚も、”世界との見えないつながり”を描いた作家らしい、と言えるのかもしれないなと思う。