狛江の花火大会

今日は花火大会。開催自体が五年ぶりで、僕がこの街に引っ越してから初めてになる。一ヶ月ほど前から町内のあちこちの看板や市役所にたくさんのポスターが貼ってあった。

体調のこともあったので序盤だけ見て帰ろうと思いながら、打ち上げ時刻に合わせて花火会場の多摩川に向かった。会場には、まだ多少座る場所も残っていたものの、すぐに帰れるように高架下の手前のガードレールの辺りで空を眺めていた。隣には、老夫婦が並んで立ち、「もう始まりましたか」と待ち遠しそうに尋ねてきた。「これからみたいですよ」と僕は言った。

夕暮れどき、背後の遠い空には、今にも雷雨の降り出しそうな積乱雲が立ちこめている。黒々とした大きな雲の内部を這うように稲光が光ったり消えたりを繰り返し、雷鳴とともに、見物人や通行人が不安げに振り返っていた。まもなく日が沈み、協賛企業の紹介と、市長の挨拶が始まった。どうやら天気の心配はなさそうだ。マイクの声は、川沿いの涼風と待ちわびる観衆の喧騒にかき消された。気づくと夜空が広がり、女性のアナウンスでカウントダウンが始まった。そして、アナウンスの声と、まばらに重なった観衆の「ゼロ」という掛け声に合わせ、想像していたよりもずっと大きな花火が、小田急線の走る鉄橋の遥か上空に打ち上がった。色とりどりの花火と、橋を通り過ぎていく電車の灯りと、静かに夜空を見上げる沢山の人々の姿が折り重なり、美しく幻想的だった。

ぼうっと見惚れていたら、花火の煙が風に流され、ほんの少し咳き込んだ。それから僕は、花火が始まってだいたい二十分くらい経ち、帰路に向かった。帰り道の途中、振り返ると、クラッカーのようなピンク色の花火がぽんぽんと夜空に飛び出すのが見えた。

夜、静かになった頃合いで、もう一度、花火の終わった多摩川の河川敷を散歩した。まだ広場に残って飲んでいたのか、酒の臭いをぷんと漂わせる若い女性や、木陰でキスする恋人たち、花火の後片付けをしている人たちがいた。祭りの終わったあとの静まり返った町には、散った花火の欠片のような紙くずが、寂しげに転がっていた。