新海誠、その作品と人。

著者 – スペースシャワーネットワーク 出版 – 2016年
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現在、『君の名は。』が大ヒットしているアニメーション監督の新海誠さん。
彼を特集した、『EYESCREAM増刊 新海誠、その作品と人。』では、影響を受けた人物として、大江千里さんやRADWIMPS、小説家の村上春樹さんらとともに、映画監督の岩井俊二さんの名前を挙げ、お二人の対談も掲載されています。
以下、その対談の中身を一部抜粋しながら簡単に紹介したいと思います。
まず、冒頭で新海さんは、岩井俊二監督の初のアニメーション作品『花とアリス殺人事件』が、『君の名は。』のコンテを描いている最中に公開し、その影響がずいぶんと残っている、と語ります。
そして、『君の名は。』に隠された、岩井作品に対するいくつかのオマージュを明かしています。
新海 : バスに乗って、瀧くんを真ん中にして奥寺先と司がこう……とか。あれは実写のほうの『花とアリス』のまんまのアングルをいただいて(笑)
岩井 : ああ、あの構図は何となく気づきましたけど ── オマージュなんですか?
新海 : そうです。
スペースシャワーネットワーク『EYESCREAM増刊 新海誠、その作品と人。』より
また、この本の別の箇所に載っている新海監督単独でのロングインタビューでも、ビルや電柱のような「無機質なものに心情を託す」という手法について影響を受けたと語っています。
そうした大きな無機物に心情を託す手法は僕が見出したものではないですよね。いろんな影響が絡み合ってるとは思います。
今回、岩井さんとの対談ができるということで『リリイ・シュシュ〜』を見返して、両毛線沿いの窓の風景とか、青空に工場の白い煙であったりとか鉄塔のシルエットとか、そうしたものにグッとくるものがあって、無機物に心情を託すみたいなところっていうのはこういうところから影響を受けてきたのかもしれないなと思いました。
スペースシャワーネットワーク『EYESCREAM増刊 新海誠、その作品と人。』より
映画のエンディングロールで、スペシャルサンクスに岩井監督の名前があるのも、こういった理由からなのでしょう。
一般的に「アイデンティティ」に閉じこもりがちな傾向があるクリエイターという職種を考えると、新海監督は、自作のルーツや関係性を気さくと言ってもいいくらいに爽やかに公言します。
そういう感覚も、”世界との見えないつながり”を描いた作家らしいと言えるのかもしれません。
岩井監督はRADWIMPSの野田洋次郎さんとも交友が深く、野田さん作詞作曲のAimerの「蝶々結び」という曲でPVの映像を作っている。これもまさに「結び」の歌です。
この本は、『君の名は。』をきっかけに新海誠さんに興味を持った、という方にとっても(もちろん既存のファンにとっても)、これまでの作品やルーツ、人となりを知るのにおすすめの一冊だと思います。
僕も決して熱心なファンではなかったのですが、とても興味深く充実した内容でした。