小田急ロマンスカーが好きな男の子
母曰く、僕は子供の頃、小田急ロマンスカーが好きだったそうだ。小田急ロマンスカーとは、小田急線を走る特急列車のこと。
小田急ロマンスカーは地元では走っていないので、子供の頃の僕は、この電車を図鑑やテレビで見たのか、旅行先で乗ったのか、あるいは神奈川に住んでいる親戚の家に行くときに見たのかもしれない。
母は、少年時代の僕のおぼつかない口真似をしながら、「あんたよく、おだきゅうろまんしゅかー、と言っていたんだよ」とよく語っていた。
僕自身は、そのときの記憶を全く覚えていない。一体なぜ他の電車ではなく、「小田急ロマンスカー」が好きだったのだろう。
外観のかっこよさに惹かれたのか。それとも、「小田急ロマンスカー」という響きが気に入ったのか。
大人になった僕は、母の声を通して蘇ってくる「おだきゅうろまんしゅかー」という響きと、ほんの少しのもどかしさを抱きながら、走り去ってゆく小田急ロマンスカーを眺めていた。